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日常がクソすぎる件

▼日常というのはつまらない。

全人類にとっての敵は戦争や憎しみかも知れないが、このクソ平和な日本における一番の敵は「退屈」です。
毎日決まった時間に起きて電車に乗って会社や学校に行き、さほどおもしろくもない日常をこなして、そこそこの時間になったら帰ってテレビでも見てフロに入って寝る。
いつかはなにかが起きてくれることを願っているが、それが来ないこともまたどこかで分かっている。
そんな日常。
かつては私もそういう日常を過ごしていた。
学生だったこともあるし、信じられないことにサラリーマンだったこともある(出社するなり自分のデスクで米を炊いたり、無断欠勤を繰り返したり、3年間一度も定時に出社しなかったりした結果クビになりました)。
日常を変化させるのは視点だ。
たとえば月というものがある。
いまこれを読んでいる人は空に浮かんでいる月の大きさを指でだいたいこのくらいだと示して欲しい。
そしてそれをもちあげて実際に空に浮かんでいる月の大きさと比べてほしい。
どうだろう?
ほとんどの人がピンポン玉くらいの大きさを示したのではないだろうか。
だが実際に見える月は五〇円玉の穴くらいの小ささにすぎない。
いつも見ている日常もこうしてちゃんと見ると、思いがけない発見がある。
これを書いている現在、私はある出版社においてカンヅメという状態にあるのだが、三日目くらいに何気なくペン立ての中をのぞいたところ、ポストイットが二つ。その片方になにかが書いてあった。
「こんにちは!もしあなたが今暇だったら友達になりましょう!xxxxx@xx.co.jp」

裏側には
「執筆ご苦労様」

これは…………一体…………。
バクバクする心臓を抑え、とりあえずフロでリラックスして考える。
これは間違えてどこからか持って来たものではない。明らかにこの部屋にいる人間を意識している。
だとするならばこれを書いたと予想される人物は、
1) 清掃員――病気の妹の医療費を稼ぐために青森から夜行バスでやってきたアルバイトの女の子が、さみしくて書いてしまったのだ!
2) まえにはいっていた作家――若くしてデビューしたために男の友達がおらず、お金持ちだけど空想癖があって引っ込み思案なメガネっ子(外したら美人)が残していったのだ!
3) まえにはいっていた作家が呼んだホテトル――文豪が暇つぶしに呼んだ芸者は先生が酔って寝てしまったため暇つぶしにメッセージを残したのだった!
4) 編集者――いっこうに原稿がとれない新卒の編集者萌絵は考えた「そうだ!執筆室の先生にメッセージを残せばいいんだわ!」こうして新たなる作戦として……以下略
5) 妖精――一〇〇〇年に一度現れる小説神のお使いで現れた妖精は選ばれし作家、ゴッドオブライティングソサエティを集めるべくどうでもいいかんじでコンタクトを取るのであった!
どれが起きてもおかしくない。とりあえず私は心から愛を込めた三島由紀夫の切腹直前スーパー演説なみにメールしてみた。
「執筆室より こんにちは! ぼくも友達になりたいです! メールよろしくお願いします! 童貞です!」
国語辞典の付録につけられているような完璧な文章。ともすれば難解になりがちな比喩と単純になりがちな直喩がギリギリのバランスで両立している。
魂を込めてクリックして送信。
かれこれ10日以上経過していますが、返事がありません。
(初出:2008年11月 野性時代)
※これは本当に何者かわからず、メールするのが恐ろしかったのですが、一ヵ月後くらいの忘れた頃に、綿矢りさを名乗る男からメールが来やがりました!ひっかかるわけねえだろ!と思ったら本人だったェ……すいません……お元気……ですか?


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Posted in 告知, 売文保存庫, 野性時代.

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